子どもの心と眼差しに、寄り添い続けた灰谷さんの作品。
その灰谷さんのメッセージが、
登場人物の言葉や心、眼差しのひとつひとつに込められている気がする。
灰谷さんのお話を、説教くさいと批判する人もいるみたいだけれども、
灰谷さんの言葉は、上から目線の言葉じゃない。
これは、お説教なんかじゃない。
あまりにも本当のことを書いているので、
大人の心ない言葉にどれほど子供が傷つくかとか、
子どもの方が大人よりもたくさんの心を砕いていることとか、
そういう、大人にとって痛いことが書いてあるから、
批判する人がいるんじゃないかなと、私は思ってしまう。
実際に、わたしも痛かった。
自分が抱えている偏見とか傲慢さとかを、見せつけられた気がした。
この本は、三つの作品からなる。
『海になみだはいらない』
『きみはダックス先生がきらいか』
『ひとりぼっちの動物園』
いま、タイトルを見返しただけで、
登場人物達の言葉や気持ちが蘇ってくる。
(タイトルはこうじゃないと!!)
特に考えさせられたのは、
『ひとりぼっちの動物園』。
5つの物語から成っているのだけれど、
それは一つの詩から始まる。
あなたの知らないところに
いろいろな人生がある
あなたの人生が
かけがえのないように
あなたの知らない人生も
また かけがえがない
人を愛するということは
知らない人生を知るということだ
そうして物語をひとつひとつ読み進めていくうちに、
ひとりひとりの人生に思いを馳せる。
自分が子供と接するとき(大人でも同じだけれど)、
わたしは私がこの作品の中で嫌悪したような大人になっていないだろうか。
そう、自問自答せずにはいられない。
何度も読み返したい本だ。
以下、心に残った言葉。
「いのちというもんは消えるとがっかりする。生まれるとからだのまん中がいつまでもあったかいもんや。
―亀山さん 『ひとりぼっちの動物園』
「動物はみんな自然からのかりものや。遠いジャングルや氷山からつれてこられて、やけも起こさず、みんないっしょうけんめい生きとる。動物の中にわるいやつが、たった一ぴき、たった一頭もいないのは、みんないっしょうけんめい生きとるからや。人間もいっしょや。いっしょうけんめい生きとるやつにわるいやつはおらへん」「そういうわけやから動物園の動物は、できるだけ健康で、たくさんの子どもが生まれるようにしてあげんといかんのや。それが自然からのかりものをかえすことにもなるのや」
―亀山さん 『ひとりぼっちの動物園』
「わたしたちの先生は美しく歌をうたうことだけでなく、歌の心を教えてくれました。ひとりひとり顔かたちのちがう人間が心をあわせて、一つのことをやりとげるのは、世の中でいちばん美しいことだと教えてくれました。」
―キヨコ 『きみはダックス先生がきらいか』
そして、ドヤ街の子ども館で子どもたちが歌っていた歌。
きみの
おとうさんは戦場で死んだ
弾にうたれて
きみの
おかあさんは台所で死んだ
やっぱり弾にうたれて
そして きみは
生まれてこなかった
けっして生まれてこない
子どもになった
きみからは
きみの子どもが生まれる
きみの子どもからも
子どもが生まれる
やがて地球を
おおいつくすだろうきみの子どもが
いま 死んだ
夜 目をさますと
きみがわらっている
じっとぼくの目を見てね
夜 目をさますすべての人が
きみの笑顔を見るように
夜 目をさますと
きみがわらっている
じっとぼくの目を見てね
きみは公園を知らないし
ミルクも飲んだことがない
だから子どもじゃないと
もしだれかがいったら
涙を知らないおとなでも
やっぱりおとなっていうじゃない
そういっておやり
きみとぼくには
ことばはいらない
おなじ夢を見れば
ことばなんていらないさ
きのう、ぼくは夜おそくまで
世界地図を見ていただろう
旅をする人は地図を見て
旅のできない人は夢を見るっていうけれど
きみのような子どもを見るために
地図を見る人間だっているんだよ
泣くことのできなかった子の涙やら
わらうことのできなかった子のわらい声を
たしかに見ききするために
ぼくは新聞のニュースより
一枚の地図のほうをえらぶんだ
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