じゃがいものサラダ。
が、口の中には、じゃがいものサラダより数段まろやかな甘みがある。
目はいちおうスクリーンを見ていたが、意識の方はすべて舌にもっていかれ、そのまろやかさが何に似ているか、懸命に記憶を探って言い当てようとしてみた。
でも、うまく言えない。とにかく、非常に美味しいもの。しいて言えば――本当にしいて言えば――本物の栗を練ってつくられたモンブラン・ケーキのクリーム。
いや、あれほど甘くなく、もっと歯応えがある。(p19)
<トロワ>で働くようになって、(中略)仕事というのは誰かのためにすることなのだと当たり前のことに思い至った。
その「誰か」をできるだけ笑顔の方に近づけること――それが仕事の正体ではないか。どんな職種であれ、それが仕事と呼ばれるものであれば、それはいつでも人の笑顔を目指している。(p142)
「あのね、恋人なんてものは、いざというとき、ぜんぜん役に立たないことがあるの。これは本当に。でも、おいしいスープのつくり方を知っていると、どんなときでも同じようにおいしかった。これがわたしの見つけた本当の本当のこと。だから、何よりレシピに忠実につくることが大切なんです」(p203)
そして、帯と裏表紙の言葉もいい。この物語の良さがよくまとまっている。やはりプロはすごいなぁ。
【帯】
もしかして
これは恋愛小説かもしれない。
銀幕の女優とおいしいサンドイッチに恋をした青年の物語
『つむじ風食堂の夜』の著者が贈る
「月舟町シリーズ」第二幕
【裏表紙】
路面電車が走る町に越して来た青年が出会う人々。商店街のはずれのサンドイッチ店「トロワ」の店主と息子。アパートの屋根裏に住むマダム。隣町の映画館「月舟シネマ」のポップコーン売り。銀幕の女優に恋をした青年は時をこえてひとりの女性とめぐり会う――。いくつもの人生がとけあった「名前のないスープ」をめぐる、ささやかであたたかい物語。
0 件のコメント:
コメントを投稿